記事

農林業研究

小井田家族の立体農業の歩み 直木 葉造

岩手県九戸村にある「小井田立体農業研究所」は、賀川豊彦が提唱した循環型立体農業を三代にわたり実践しています。 創始者の小井田與八郎氏が戦後間もなく、限られた土地を立体的に利用するため、地元産の手打ちクルミを軸に、その樹間に放牧乳牛と放し飼い養鶏を有機的に組み合わせた農場を創設。クルミの木の害虫を鶏が駆除し、牛と鶏のフンがクルミの肥料になる**「人と生き物の連携プレー」**を確立しています。 化学肥料や農薬に頼らず、家族皆で**「食べていける農業」と高い自給率**を目指す姿勢は、持続可能な農の在り方と、お金やモノに依存しすぎない豊かな生き方を追求する尊い事例として、食料安全保障の観点からも大きな示唆を与えています。現在は、孫の寛周氏が加わり、通販など新たな販売にも取り組み、その歩みは将来へ向けた希望となっています。

農業

あいのう農林業研究の方向と課題 奥田 信夫

本研究は、持続可能で環境に優しい農林業と、生産者の安定した生活の実現に向けた総合科学的な探求です。 目指す方向性として、安全な食糧生産、消費者理解の促進、そして望ましい農林業のあり方の提示を掲げています。これは内村鑑三の「世界的平和は自作農業の発達を促す」という思想や、山下惣一の「個々の農家の奮闘が戦争を止める道」という見解とも通じます。 具体的な研究テーマには、低投入安定生産技術、二酸化炭素削減、里山作り、自給飼料畜産などが挙げられます。この研究の目的は、専門家だけでなく、農業者や若者と共に学習を進め、農林業が直面する諸課題の解決を図ることにあります。

愛農運動史

小谷純一と内村鑑三の流れ

小谷純一は、内村鑑三の影響を受け、1950年に信仰雑誌**「聖霊」を創刊し、内村の「デンマルク国の話」を連載しました。小谷は内村を、日本の誤った愛国心や富国強兵路線を痛烈に批判した「預言者」であり、神に選ばれて日本国民の思想を浄化し、国家の滅亡を防ごうとした「義人」「世の光」**であると高く評価しました。 小谷は内村の弟子である黒崎幸吉、政池仁、矢内原忠雄らを愛農塾や愛農聖書研究会(1958年設立)に招き、内村の信仰と教えを愛農運動の中心に据えました。特に矢内原忠雄は1957年に愛農会の信仰大会で講演し、その活動を高く評価しました。 小谷自身も内村に触発され、自身の卑怯さや弱さを自覚しつつも、敗戦日本と人類を救う**「愛農救国運動」**の遂行という神の召命に応答する決意を表明しています。

海外農業

愛農高校における海外農業実習の歴史 直木 葉造

愛農学園農業高校で約四半世紀にわたり実施されたスイス・ノルウェー海外農業実習の歴史を振り返る報告書です。 この海外実習は、スイス・東アジアミッションやノルウェー・ルーテル伝道団など外部の協力により、1期生(スイス)および7期生(ノルウェー)から始まりました。24期生を最後に終了するまでに、卒業生約620名のうち105名(スイス60名、ノルウェー45名)が参加し、愛農教育において重要な役割を果たしました。 報告では、100名を超える生徒を受け入れた両国の農家への深い感謝が述べられています。当時の研修生たちは、愛農高校の農業教育の大きな糧を得ており、卒業後も現地農家との交流を続ける人が多く、海外交流の復活を望む声が上がっています。筆者は、まず学校間交流から再開し、将来的に農家実習を新たな形で復活させることを展望しています。

愛農運動史

小谷純一と良心

小谷純一は、キリスト教信仰において**「良心」を最も重視し、神の声を聞く受信機として人間に備わったものだと説きました。愛農学園農業高校の建学の精神では、「神を忘れた良心は麻痺する」と警告し、その覚醒**を教育目標としています。 小谷は「聖霊」誌上で、良心を「神のみ姿をうつす鏡」と呼びましたが、人間の良心は罪によって汚れ麻痺しているため、そのままでは神を見ることができないと指摘しました。カントの言う実践理性にも言及しつつ、努力や修養による良心の清浄化を否定。キリスト・イエスの十字架を信じ仰ぐことでのみ、良心の汚れは洗い清められ、**「世の光、地の塩」**たる真実な良心に甦ると強調しました。 彼は、聖書を通じてキリストの人格とみ言葉に触れることこそが、眠れる良心を目覚めさせる道であると教えました。

愛農運動史

ウォン・ギョンソン<元敬善>(1914-2012)さん

「韓国有機農業の父」と称される**元敬善(ウォン・ギョンソン)**氏(1914年生まれ)は、1953年に京畿道富川市で「プルム農園生活共同体」を設立し、飢えた人や孤児と共に自給自足の生活を始めました。 1975年に小谷純一氏を韓国に招き、「肥料と農薬で育てた農産物は生命を殺す」という警告に共鳴。翌1976年に農場を移転し、「命を大切に」を精神的基盤に、韓国で初めて化学肥料と除草剤を使わない有機農業を開始しました。同時に、韓国初の有機農業従事者団体**「正農会」**を発足させました。 彼は有機農法を通じて環境保護と海外伝道・平和活動に尽力し、国連グローバル500賞をはじめとする数々の賞を受賞。生涯にわたり共同体運動を続け、その活動は2004年に忠清北道槐山郡へ移転した後も受け継がれています。

海外農業

ノルウェー滞在報告(2023.3.15~6.15) 近藤 百

愛農高校職員の近藤百氏が、2023年3月から3カ月間、家族と共にノルウェーに滞在した目的と成果をまとめた報告です。 滞在の主な目的は、日本とは異なる価値観の再構築と、人口減少が予測される日本にとってのヒントとなる**「小さくて頑丈な暮らし」**の確認でした。ノルウェー南部ノートデン町で、かつて日本で宣教経験のあるカールセン夫妻宅にホームステイし、難民支援カフェの運営など、キリスト教信仰に基づいた献身的な生き方を間近に学びました。 また、愛農高校のルーツである北欧の民主主義と農民の力を探るため、3つの農業高校とフォルケホイスコーレを訪問。ノルウェーの教育は無料で「体験」に特化し、国民の考える力に期待する姿勢が強いことを確認しました。国民が国と対等意識を持ち、自然を支配するのではなく共に生きる素朴で質素な国民性の中に、愛農教育と共通する精神と、**「自立した豊かな暮らし」**のヒントを見出しました。 今後は、費用や距離の課題をクリアしつつ、相互訪問に意欲を示す学校との交流再開に努めていくとしています。